まず、【メタボ】、がん検診後回し

     

2007年11月19日 読売新聞

まず、【メタボ】、がん検診後回し 予防の大切さ同じでも…
国のがん対策の柱となるガン検診が、危機的な状況に立たされている実態が読売新聞の調査で明らかになった。
受診率向上策も手詰まりな上、来年4月から始まる特定健診も自治体のがん検診を圧迫している。
ガン対策が他の生活習慣病に比べ法的に低く位置づけられたことが背景にあり、専門家から異論も上がっている。
◆業務増大
千葉県東部、九十九里浜の南に位置する人口約1万5000人の長(ちょう)生村(せいむら)。
胃ガン検診受診率が66%(全国平均12%)、精密検査受診率がほぼ100%(同74%)と、がん検診の「優等生」と評価される。
要精密検査などと判定された約300人は、無料バスで約40キロ・メートル離れた千葉市へ集団で検査に行く。
約30年間続ける取り組みだ。  
村は毎年、自治会などを通じて、検診受診の有無を調査し、台帳管理を徹底する。
「4人の保健師が個別に電話するなどして、精検を勧める。
胃がん死は、毎年2~3人まで減少した」と、同村健康指導係長の池礼子さんは胸を張る。
富山県滑(なめり)川市(かわし)
胃がん検診の受診率が県内一の36・7%。女性の胃ガン死も着実に減少する。
郵送で全世帯に検診を知らせ、市の40歳以上の健康診断とガン検診を同日に行うなど、受診しやすい工夫をしてきた。  
しかし来年度から始まるメタボリックシンドローム(メタボ、内臓脂肪症候群)対策の特定健診が、これら市町村に影を落とす。
メタボ健診受診者への生活指導など、保健師の業務が増えると予想されるためだ。  
滑川市は混乱を避けるため、特定健診とガン検診とを別の日に行うことを決めた。
受診率の低下が心配されるが、市民健康センターの石原和子所長は「本来はガン検診と特定健診の一体化が理想だが、仕事の効率化を進めるしかない」と話す。
長生村も「ガン対策は質を落とさない。力を合わせて乗り切る」という姿勢を見せる。  
ガン検診は受診者が増えるほど費用がかさむため、受診者数に上限を設ける自治体もある。
市町村検診受診率は、平均12・4~22・3%と低く、地域差も大きい。胃ガンの場合、トップの山形県(39・2%)から最下位の東京都(4・9%)と開きがある。
受診率が高い地域は、長生村や滑川市のような、保健師の地道な力が大きい。  
国は、4月施行のガン対策基本法に基づき、ガン死亡率を下げるため、検診の質や受診率の向上を、ガン対策の柱に据えた。
◆行政ちぐはぐ
一方、メタボ対策の特定健診は、脳卒中や心筋梗塞(こうそく)を減らし、将来の医療費の削減を狙う。
ガン対策と同時にスタートしながら、特定健診が高齢者医療法で市町村など医療保険者に義務づけられたのに対し、ガン検診は健康増進法の努力義務にとどまった。
「市町村の関心が特定健診に傾き、国の財政支援のないガン検診が後退する」という指摘がある。  
こうした実態は、読売新聞調査でも読み取れる。国が掲げる50%の受診率目標に、都道府県は苦慮する。
山形県は、個人に呼びかけ、市町村ガン検診受診率が39・2~46・2%と、肺ガンを除き全国一。
しかし「特定健診の影響で、一度受診率が下がると向上は簡単ではない」として、「達成は難しい」と回答した。
「県も市町も、ガン対策予算を十分に確保できない」(香川)と訴える県も目立った。
大阪府立成人病センターの大島明・ガン相談支援センター所長は「予防の大切さは同じで、メタボを重視しガンを軽視するかのような医療行政はちぐはぐ。
国は計画的な視点で制度を作ってほしい」と指摘する。  
達成が可能とした宮城県は、胃と肺で検診受診率70%の目標案を公表した。
現状では、職場の検診を含め胃45・7%、肺61・6%に達するが、それでも「実現は、相当の努力が必要だ」と慎重だ。  
受診率が上がらない理由の一つとして、住民の関心の低さがある。
本紙調査では都道府県の7割がそう回答した。
先日、発表された内閣府の調査(3000人対象)でも94%がガン検診を「重要」と答えたが、一度も受診していない人が37~54%に上った。
全受診者数把握できず…質の管理 国も責任
ガン検診受診率が伸びない理由はほかにもある。  
ガン検診には市町村検診のほか、職場での検診や人間ドックなどがあるが、全体の受診者数を把握する仕組みがない。
本紙調査では、正確な受診率は「国主導で調査する以外に不可能」(広島県)などの声も相次いだ。  
また、国は、検診の質を確保するため、都道府県に「生活習慣病検診管理指導協議会」の年1回以上の開催を求めるが、本紙調査では、一度も開かないところも多かった。
市町村での、ガン検診の安値競争が激化すると同時に、精度の低い検診が広がっている懸念もある。  
ガン検診の質の管理に詳しい小坂健・東北大教授は「特定健診のように、法律でガン検診の実施主体と責任を明確にすべきだ。
その上で、国は質の管理を徹底し、受診率の向上が、例えば医療費の削減など市町村の利益につながる方法を考えることが大切」と指摘している。


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